世界中で、OEMは多くの主要な技術領域における革新を急速に進めています。OTA(Over-the-Air)プラットフォームはこのような動きの基盤となっており、より多くの自動車メーカーが、マイナーアップデートや改良の提供から、ハードウェアやソフトウェア機能のアンロックに至るまで、さまざまなレベルでOTAを統合しています。欧州と米国におけるこのイノベーションの進展状況について、SBD Automoiveは先ごろ「OEM各社の最新OTA機能ランキング」という記事を発表していますが、中国地域のランキングでは、多くの中国国内 OEM がグローバルに自動車を供給している OEMより上位に位置しており、異なる様相を呈しています。
本記事では、2024年第3四半期の中国地域のOEMにおけるOTAランキングを分析し、欧米市場のランキングとの類似点および相違点を探ります。また、中国国内OEMのランキングで上位に位置するNioについて深く掘り下げ、その主要テクノロジーおよび戦略が競合他社を上回る点はどこか、他地域のOEMはNioの成功から何を学ぶことができるのかについて解説します。
中国および欧米におけるランキングの比較
下図のとおり、2024年第3四半期の中国OTAランキングの上位5社は、Tesla、Li Auto、Nio、NETA、Xpengです。欧州と米国のランキング上位5社(2024年 Q3の最新版レポートに基づく)と比較して、まず目につくのがTeslaの位置づけです。中国ランキングではTeslaが首位ですが、欧米のランキングの中では、TeslaはFord (EUと米国では1位)、Genesis、BMW、Polestar、Rivian、Lucid Motorsなどのレガシー自動車メーカー、OEMブランド、新規プレーヤーに囲まれる形となっています。
中国のランキングそのものを詳しく見てみると、トップ5にランクインしている国際的なOEMはTeslaだけで、その他は中国国内OEMであることがわかります。さらに、これらの中国国内OEMは、欧米のランキングでは上位5位に位置するOEM(例えば、FordやBMWなど)よりも上位にランクインしています。こうしたことから、中国市場のOTAやソフトウェアアップデートの分野では、欧米のOEMと比べ中国国内のOEMが優位な立場にあることを示唆しています。本記事では、こうした状況をより詳しく理解するため、中国のランキングで上位に位置する中国国内OEMの1つであるNioについて深堀り分析します。同社の最新のイノベーションを分析するとともに、欧米のOEMが同社の事例から学べる教訓を明らかにします。
Nioの詳細
Nioは2014年11月にWilliam Li氏によってEV専用の自動車メーカーとして設立され、当初はNextEVとして知られていました。同社は中国のテクノロジー大手であるTencentやXiaomi、Chehejia、Baiduからの支援を受けた後、フォーミュラEチャイナレーシングチームのスポンサーとなり(2016年に買収)、国際的な知名度を獲得しまた。同レーシングチームは、4つの電気モーター、1000kW(1341ps)の出力、スワッピング可能なバッテリーを特徴とするNextEV初のロードカーの開発をサポートしました。2016年11月、同車両はEP9として発表され、NextEVは新に「Nio」と改名されました。
その後、Nioは米国とドイツに設計・技術子会社を設立するとともに、自社内で技術を供給するサプライヤーとしてXPTを立ち上げました。Nioブランドとしては、2017年11月、上海に初の小売店「Nio House」をオープンして本格的なデビューを果たし、その1カ月後には初の量産車を発表しています。現在、中国では、ET(ET5、ET7、ET9、ET5T)、ES(ES6、ES8、ES7)、EC(EC6、EC7)の3カテゴリーで9車種のEVを展開しており、セダンとSUVにおいてアクセシブルおよびプレミアムなモデルを提供しています。欧州地域では、NioはET5、ET7、ET5、ET5T、EL7(ES7を改称)を提供しています。Nioはその立ち上げ以来、急速な拡大と革新を遂げていますが、同社の最大の特徴であり、おそらく最大の強みは、NextEV時代に最初のコンセプトモデルで概念化された、交換可能なバッテリーだと言えます。
NioのすべてのEVラインアップで利用できるこの交換可能なバッテリーは、「バッテリー交換」ステーションの開発を促進しました。バッテリーの残量が少なくなり、Nioの顧客がステーションの前にEVを停めると、車両は自動でステーションの中に誘導されプラットフォーム上に停止します。ロボットが消耗したバッテリーをEVから取り出して、ステーションに保管されているフル充電された新しいバッテリーユニットと交換します。2024年10月現在、Nioは中国国内に2,753カ所(うち860カ所は高速道路沿い)、欧州全土に56カ所のバッテリー交換ステーションを設置しています。このステーションは中国で勢いを増しており、Nioによると毎日平均7万9000件以上の交換が行われているということです。中国の最新ステーションでは、144秒でバッテリー交換を完了し、1日あたり最大480回の交換が可能だと同社は述べています。
中国国内で成功を収め、現在では欧州全域に足場を築きつつあるNioのバッテリー交換インフラは、同社の企業目標を密接に反映しており、こうしたことから欧米のOEMは多くの教訓を得ることができます。Nioのバッテリー交換ステーションは、従来のEV充電ハブの3分の1のスペースで設計されており、これらのハブの電力供給に通常必要なエネルギーの3分の1に抑えています。こうした低低消費電力設計は、持続可能な未来を実現するという同社のミッション「Blue Sky Coming」を体現しています。顧客体験を向上させ合理化するというNioの目標は、このインフラが顧客に提供する利便性にも表れています。最も顕著なのは、他の自動車ブランドにも使用され混雑した充電ステーションで「充電」するよりも、バッテリーを「交換」することで時間を節約できるという点です。ビジネスと顧客の双方に利益をもたらすという観点から、欧米のOEMがNioのバッテリー交換インフラから学べる教訓は、新技術やイノベーションの開発中に、自社の中核となる価値観、原則、目標を優先させることの重要性です。これは、OEMが新たなイノベーションの開発・導入する際に、全体的な視点を欠いて収益性を優先した結果、顧客から反発を受けた事例を考慮すると、特に重要であると言えます。
次のステップ
上述したように、総合的に開発されたNioのバッテリー交換インフラは、同社が欧州全域での拡大を進める上で、その基盤および消費者へのアピールを強化しています。こうしたことに加えて、Nioは中国国内での成功の後に国際的に拡大している多くの中国OEMの1つに過ぎません。
本記事ではOTAについて取り上げていますが、OTAは中国の自動車メーカーが急速にイノベーションを進めているいくつかの領域のひとつに過ぎず、インフォテインメント、バッテリー、充電、アーキテクチャといった分野でも独自のイノベーションが展開され、いずれも競争力のある価格帯で提供されています。こうした状況は、西側諸国の政府が自動車メーカーに厳しい排ガス規制を課すことでEVの普及を促し、その一方で自動車メーカーは電動化車両ラインアップを開発し、EVの購入を検討している顧客にさまざまなインセンティブを提供するという取り組みと密接に関連しています。中国の自動車メーカーが自国の市場で革新性と手頃な価格のバランスを取りながら国際的な拡大を続ける中、西側諸国で事業を展開する自動車メーカーは、こうしたメーカーの到来に備えて十分な準備を整え、この新たな競争に打ち勝ちその先を行くためのコネクティビティ戦略を強化する必要があります。
中国版 OTAおよびソフトウェアアップデートガイドでは、コネクティビティの専門家がこの地域のOTAアップデートをめぐる最新の業界活動を追跡し、国内OEMが提示するOTA戦略に照らして自社のOTA戦略を評価できるようにするとともに、OEMが現在提供しているアップデートの種類と、それを可能にするために必要な技術をマッピングしています。2024年版では新たに、中国地域のOEM OTA能力ランキングを掲載し、上位の中国OEMがOTA戦略の提供においてどのように優れているか、また下位のOEMがどのようにシステムを強化できるかについて、専門家による洞察を提供しています。
SBD Automotiveでは、中国、欧州、米国におけるOTAアップデートソリューション、機能、技術の現在のエコシステムについて継続的に調査を行い、レポートを発行しています。
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