UXベンチマーク評価 - Volvo EX90
- SBD Automotive
- 5日前
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OEM各社はソフトウェア(SDV)実現に向けた取り組みを続けており、車両に搭載される技術の数も、ユーザーエクスペリエンス(UX)に対するそれらの技術の重要性も増しています。しかし、これらの技術の成功は、UXをシームレスで満足のいく方法で提供できるかどうかにかかっています。それにより、OEM、開発者、サプライヤーは、製品のローンチを成功させるとともに、車両とそのデジタルサービスのエコシステムに対する長期的な顧客ロイヤリティを醸成させることが可能となります。
SBD Automotiveが発行する車載HMI UXベンチマーク評価レポートシリーズでは、HMI機能が車載ユーザーエクスペリエンスにどのような影響を及ぼすかをプラスとマイナスの両面から調査しています。SBDのベストセラーかつロングランレポートの1つである本レポートでは、グローバルに提供されている最新のHMIシステムを包括的に評価・分析しています。2025年度版の本シリーズでは、SBDのUX専門チームが9車種のシステムをテストおよびベンチマークし、同分野におけるシステムの特徴や傾向を明らかにします。
今回のインサイトでは、新型Volvo EX90に搭載されたシステムを分析する2025年UXベンチマーク評価シリーズの第1弾となるレポートについてご紹介します。同モデルのIVIとUXのハイライトを紹介するとともに、最も興味深いテクノロジーをピックアップしてその長所と短所を概説し、エンドユーザーエクスペリエンスへの影響について考察します。
Volvo EX90の詳細
EX90のコアシステムは、XavierとOrinのNvidia Drive AIプラットフォーム、QualcommのSnapdragon Cockpit Platform、そしてVolvo独自の社内ソフトウェアを組み合わせて構成されています。これらのシステムが一体となって、安全性、インフォテインメント、バッテリー管理など、EVのインテリア機能の多くを担います。これらの機能は、OTAアップデートによって継続的に改善・最適化され、時間の経過とともに新たな機能の追加も可能になります。
EX90のインフォテインメント機能の中核を担うのは、Google Built-Inを搭載した14.5インチのセンタースクリーンです。Googelの車載向けOSであるGoogle Built-Inは、Google Assistant、Google Maps、Google Play Storeなど、人気アプリやサービスのネイティブバージョンを提供します。同ディスプレイは、Snapdragonのコックピットプラットフォームと、Epic Gamesが開発した3Dグラフィックスツール「Unreal Engine」のビジュアライゼーション機能との組み合わせによって性能が強化されています。これにより、EX90はコンピューティングパワーが向上し、ヘッドアップディスプレイを含む車内の各種スクリーンにおいて、高品質なグラフィック表示が可能となっています。
主なポイント
EX90を評価した結果、さまざまなHMIシステムの実装において長所と短所が混在していることが明らかになりました。同モデルの重要な弱点の1つとして安定性が指摘され、大規模なソフトウェアアップデートの後でも27の問題(うち4つは重大)が検出されました。UX専門チームは、これらがコアとなるユーザーエクスペリエンスにとって非常に深刻な問題であり、ユーザーに一貫性のなさや、困難さ、フラストレーションを感じさせるものであると評価しました。

Volvo EX90のインフォテインメントシステムにおける操作系のデジタル化、とりわけHVAC(空調)が完全にデジタル化された点についても、UX専門チームは同様の見解を示しました。物理スイッチに比べ、このようなデジタル化がユーザーにとって認知的負荷を高める可能性があると指摘しています。これは、EX90のコントロールの分布で最も顕著に観察されました。こうした傾向は、EX90の操作系の分布において特に顕著に見られました。操作系は8つの独立したパネルに分かれており、そのうち3つには主要なコア機能が含まれています。また、HVACの最大デフロスト設定は、初期(ゼロ)状態からでなければアクセスできない仕様となっていました。
こうした問題点が指摘される一方で、EX90におけるGoogle Buile-inの実装には強みも見出されました。Volvoが2022年モデルから展開しているこのシステムは、以前のものと比べて明らかに大幅な改善がなされていると、UXチームは評価しています。Google Mapsを採用したナビゲーションシステムはEX90のホーム画面に統合されており、車両の中核機能にホーム画面からよりスムーズにアクセスできるようになっています。ただし、その下層レベルでは、ホーム画面に常設のショートカットがないことから、ユーザーエクスペリエンスへのステップ追加の可能性があると、UXチームは指摘しています。
UXチームは、EX90に搭載された一連のADASの実装も高く評価しました。これはSAE自動運転レベル2(SAEでは、車線中央維持やアダプティブクルーズコントロールなど、作動中もドライバーの注意が求められるドライバー支援機能)に準拠していますが、Volvoは2025年後半にレベル3(半自動運転)機能の展開を目指しています。Volvoの現行のL2システムについて、UXチームは従来のADASよりも大幅に改善されていると評価しました。EX90の高い安定性を備えた車線追従アシスト、シンプルで論理的なインターフェース、複雑ながら効率的に機能するADAS ディスプレイが組み合わさることで、全体として優れたユーザーエクスペリエンスが実現されています。
分析
ADASの進化が見られる一方で、EX90をより詳細に分析した結果、駐車関連機能が搭載されていないことが明らかになりました。特にプレミアムセグメントの車両としては、半自動または全自動のパーキングアシスト機能が備わっていない点が、システムの潜在能力を十分に引き出せていない要因だと、専門家チームは指摘しています。またこの分析から、EX90のヘッドアップディスプレイ(HUD)のミニマルなデザインにも課題があることがわかりました。具体的には、提供される情報のレベルの低さ、平面的な2次元グラフィック、AR情報の欠如が弱点として挙げられます。さらに、制限速度や交通標識を示すアイコンが表示されない場面も見受けられました。

こうした詳細な分析により、新たな強みも明らかになりました。その多くは、EVが提供するディライト機能(UXの専門家による定義では、ユーザーが家族や友人と話題にしたくなるような「あったら嬉しい」機能)に見出されました。中でも、ハンマーの「柄」の部分が開閉し、ヘッドライトを点滅させたり、夜間に車のロックを解除したりするときに点滅しているように見える仕掛けになっており、スウェーデンらしい文化的な遊び心を取り入れながら、ユーザーエクスペリエンスに楽しさを添える要素として高く評価されました。また、HVACに組み込まれたヘルス&ウェルビーイング機能も好意的に受け止められており、特に、花粉の飛散状況と並んで、車内外の空気の質に関する豊富な測定項目が高く評価されました。
次のステップ
UX専門チームは、最終的にVolvo EX90のテストを複雑な印象とともに終えました。アップグレードされたGoogle Buile-inインフォテインメントシステムには大きな進化が見られた一方で、最終的なユーザーエクスペリエンスにおいては、システムの安定性に課題ががあることが明らかになりました。こうした問題は頻繁に発生し、ユーザーエクスペリエンスへの影響も中程度から深刻なレベルに及ぶケースがあり、実際にシステムの完全な再起動が必要になった場面も確認されました。
EX90のHMI実装を深掘りしても、専門家チームの評価はおおむね変わることはありませんでした。同EVが提供する多彩で遊び心のあるディライト機能には一定の魅力を感じたものの、半自動または完全自動のパーキングアシストが搭載されていない点については、特にs¥同クラスの車両におけるADASとの比較において、物足りなさを感じさせる要因となっていました。
本記事では、Volvo EX90の全体的なUXにおける長所と短所の一部を紹介しましたが、これらはレポートの本編にでまとめる評価のごく一部に過ぎません。120ページ以上に及ぶレポート本編ではADAS 、インフォテインメント、ナビゲーション、音声認識など、いくつかの重要な領域にわたる同車両の機能ユーザーエクスペリエンスについて、さらに深い洞察を提供しています。本書では、これらの特徴や機能をSBDの評価手法に照らして採点するとともに、2024年版HMI UXレポートでレビューした他の車両に照らし、Volvo EX90をより広範にベンチマークしています。
SBDのUXベンチマーク評価レポートシリーズでは、最新の車載HMIソリューション、そのエンドユーザーへの影響、どの車両が最も優れたユーザーエクスペリエンスを提供しているのかについて、専門家チームが包括的な評価を実施しまとめています。
2025年度の対象車両の評価や、UXベンチマーク評価レポートシリーズの発行については、SBDのウィークリーニュースでご案内します。下記よりぜひ配信登録(無料)ください。