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車載HMIのUXベンチマーク評価:Lincoln Nautilus

ヘルスケア、ウェルビーイング、V2G技術は、自動車業界にどのような影響を与えるのか?

OEM各社はソフトウェア(SDV)実現に向けた取り組みを続けており、車両に搭載される技術の数も、ユーザーエクスペリエンス(UX)に対するそれらの技術の重要性も増しています。しかし、これらの技術の成功は、シームレスで満足のいくUXを実現できるかどうかにかかっています。OEM、開発者、サプライヤーにとって、このようなUXの提供が、製品のローンチを成功させるとともに、車両とそのデジタルサービスのエコシステムに対する長期的な顧客ロイヤリティを醸成させるための鍵となります。

 

SBD Automotiveが発行する車載HMI UXベンチマーク評価レポートシリーズでは、HMI機能が車載ユーザーエクスペリエンスにどのような影響を及ぼすかをプラスとマイナスの両面から調査しています。SBDのベストセラーかつロングランレポートの1つである本レポートは、グローバルに提供されている最新のHMIシステムを包括的な分析・評価を行っています。2024年は、6車種のシステムを対象とし、SBDのUX専門チームがテストおよびベンチマークを行うことで、誰がこの分野をリードし、誰が遅れをとっているのかを明らかにします。

 

2024年8月に日本語版が発行されたXiaomi SU7のUXベンチマーク評価レポートに続き、今回のインサイトでは、2024年Lincoln Nautilusについて深く掘り下げたシリーズ最新レポートについて紹介します。同車両のIVIおよびUXについて概説するとともに、最も興味深いテクノロジーをピックアップしその長所と短所について解説します。またそれらがエンドユーザーエクスペリエンスに与える影響についても分析します。


Lincoln Nautilusの詳細

2024年型Nautilusのユーザーエクスペリエンスには、Ford Motor Companyが開発した新たなインフォテインメントシステムLincoln Digital Experienceが採用されています。GoogleのAndroid Automotive OSをベースに構築されたこのシステムは、11.1インチの中央タッチスクリーンと、ダッシュボードの横幅いっぱいに広がる48インチの4Kパノラマディスプレイを組み合わせています。パーソナライズ機能により、ユーザーはこれらのスクリーンに表示されるアプリやコンテンツをカスタマイズすることができます。また、内部処理では、メインプロセッサの処理速度が5倍、グラフィック処理能力が14倍(Epic社のUnreal Engineを使用)、メモリを4倍、ストレージを8倍向上しています。

 

Android Automotive OSの採用により、新システムでは、Googleマップ、Googleアシスタント、Googleプレイストアを含む、既知のGoogleアプリケーションを車載に特化したネイティブバージョンとして提供しています。さらに、プライム・ビデオやYouTubeなどのビデオストリーミングや車載ゲームなどのエンターテインメントアプリには、駐停車中にアクセスすることができます。生産性向上のため、Lincoln Digital Experienceでは、販売時点でVivaldi Browserアプリが利用可能で、後日Google Chromeが追加される予定です。また、さまざまなビデオ会議アプリも用意されており、ユーザーは運転中に音声のみで会議に参加でき、駐停車時にはタッチスクリーンに会議参加者のビデオ映像が表示されます。

 

主なポイント

2024年型Nautilusの主要なUXの強みのひとつは、Lincoln Digital Experienceとキャビンの両方に一貫性を持たせたことにあります。

SBDのUX専門チームは、類似するシステムの各ディスプレイ(例えば、メーターパネルとセンタースクリーン)間の一貫性を比較した際、同じ機能でも両者の間に重要な視覚的差異があることが多いことを指摘してきました。しかしながら、Lincoln Nautilusではそのようなことはなく、パノラマディスプレイとセンターディスプレイの間で、より合理的なUIが提供されています。特にラジオ、メディア、ナビゲーション機能はすべて同じような方法で表示されました。Apple CarPlayやAndroid Autoのようなサードパーティ製ソリューションも、Lincoln Digital Experience全体にわたって同様に配慮され、統合されていました。UX専門チームは、ディスプレイだけでなく、この一貫性へのこだわりがキャビン全体にまで及んでいる点も高く評価しています。車の魅力を高め、ポジティブなユーザーエクスペリエンスを確保し、車自体の認知品質を高めることができるよう、主要な機能に一貫性を持たせることがOEM各社にとっていかに重要であるかということが強調されたと言えます。

UX専門チームは、新型Nautilusのインテリア全体に見られる一貫性を高く評価する一方で、ディスプレイのカスタマイズ性がプレミアムセグメントにおける他の車両と比較して不足しているとしています。助手席側のディスプレイはカスタマイズが可能ですが、センターディスプレイや運転席側のパノラマディスプレイのレイアウトや表示画面は選択できず、ホーム画面のウィジェットや中央ディスプレイの運転席側にあるショートカットバーのアプリの選択をユーザーが調整することもできません。後者については、パノラマディスプレイ設定へのショートカットはシステムの弱点であると評価されました。オーナーは通常、最初に車両を受け取った時にこれらの設定を行い、その後ほとんど変更しないため、このショートカットは、ユーザー自身が使用頻度に合わせて選択したショートカットと比較して、全体的なUXの観点からあまり価値が無いと言えます。


分析

UX専門家によるLincoln Digital Experienceの深掘り分析の結果、強みと弱みの両方が明らかになりました。重要な強みのひとつは、ドライバーをさまざまな方法でサポートする総合的なシステムが提供されている点です。ダッシュボードの幅いっぱいに配置されたパノラミックディスプレイは、ステアリングホイールの上方、ドライバーの視線内に配置されています。このディスプレイから情報を得るためにドライバーが道路から目をそらす距離を最小限に抑え、センターディスプレイ上で同じ情報を見つけようとする必要が無いということです。パノラミックディスプレイは、ナビゲーションなどのさまざまな車載アプリをホストすることもできるため、ユーザーはより道路に集中することができ、ドライバーの注意散漫のレベルを下げることが可能です。

ただし、システムは包括的に設計されている一方で、専門チームはテスト中にいくつかの安定性の問題に遭遇しました。これらの問題は、安全性や機能性の観点で致命的とまでは言えないものでしたが、全体的なUXにはネガティブな影響を及ぼしています。チームは、これらの問題の主な原因がGoogleアシスタントにあることを特定しています。Googleアシスタントは、プロンプトに正しく応答しないことがあり、クラッシュしたり、タスクを完了しなかったり、リクエストを処理する際に他のコマンド入力を無視したりしました。


次のステップ

本記事で紹介したように、2024NautilusはLincoln Digital Experienceを通じて、包括的で考え抜かれたユーザーエクスペリエンスを提供しています。この新システムのテストと分析の中で、専門チームは、システムのディスプレイ全体に提供されるまとまりが使いやすさを向上させ、より安全でシームレスなUXを実現していると評価しました。しかし同時に、これらのディスプレイのカスタマイズ性は、プレミアムセグメントにおける同様のソリューションと比較すると限定的であること、また、テスト期間中に発生した安定性の問題は、今後のアップデートで解決されなければ、UXに悪影響を及ぼしかねないとしています。本記事でご紹介した情報は、 「UXベンチマーク評価 - Lincoln Nautilus」レポート本編でまとめる評価のごく一部に過ぎません。

 

150ページを超えるレポート本編では、ADAS 、インフォテインメント、ナビゲーション、音声認識など、いくつかの重要な領域にわたる同車両の機能ユーザーエクスペリエンスについて、さらに深い洞察を提供しています。本書では、これらの特徴や機能をSBDの評価手法に照らして採点するとともに、2023年HMI UXレポートシリーズで評価した車両や、2024年版HMI UXレポートでレビューした他の車両に照らし、Nautilusをより広範にベンチマークしています。

 

SBDのUXベンチマーク評価レポートシリーズでは、最新の車載HMIソリューション、そのエンドユーザーへの影響、どの車両が最も優れたユーザーエクスペリエンスを提供しているのかについて、専門家チームが包括的な評価を実施しまとめています。


 


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