OEM各社はソフトウェア(SDV)実現に向けた取り組みを続けており、車両に搭載される技術の数も、ユーザーエクスペリエンス(UX)に対するそれらの技術の重要性も増しています。しかし、これらの技術の成功は、UXをシームレスで満足のいく方法で提供できるかどうかにかかっています。それにより、OEM、開発者、サプライヤーは、製品のローンチを成功させるとともに、車両とそのデジタルサービスのエコシステムに対する長期的な顧客ロイヤリティを醸成させることが可能となります。
SBD Automotiveが発行する車載HMI UXベンチマーク評価レポートシリーズでは、HMI機能が車載ユーザーエクスペリエンスにどのような影響を及ぼすかをプラスとマイナスの両面から調査しています。SBDのベストセラーかつロングランレポートの1つである本レポートは、グローバルに提供されている最新のHMIシステムを包括的な分析・評価を行っています。2024年は、6車種のシステムを対象とし、SBDのUX専門チームがテストおよびベンチマークを行うことで、誰がこの分野をリードし、誰が遅れをとっているのかを明らかにします。
2024年10月に日本語版が発行された2024年型 Lincoln NautilusのHMI UXレポートの記事に続き、今回のインサイトでは、2024年型Hyundai KONA Electricに搭載されたシステムを分析するシリーズ最新版レポートについて紹介します。同車両のIVIおよびUXについて概説するとともに、最も興味深いテクノロジーをピックアップしその長所と短所について解説します。またそれらがエンドユーザーエクスペリエンスに与える影響についても分析します。
Hyundai KONAの詳細
新型Kona Electricでは、12.3インチのデュアルパノラミックディスプレイを備えた次世代インフォテイメントシステムが利用可能で、オーディオビデオナビシステムに統合され、ワイドスクリーンのデジタル体験を提供しています 。さらにインテリアには、前列乗員用に2つのUSB-Cポートと12V電源コンセント、後列乗員用にさらに2つのUSB-Cポートが装備されています。
マップやマルチメディアソフトウェアと並んで、新型Kona Electricのコネクティビティの中核をなすのは、OTA(Over-the-Air)技術です。これによりオーナーは、主要なコネクテッド機能の操作と体験を継続的に改善することができます。またアップデートは、EVのさまざまな制御ユニットのファームウェアに配信され、全体的なパフォーマンスと機能性を強化することが可能です。
Kona Electricのコネクティビティは、Digital Key 2 Touchなど多くの主要技術をより広範囲に支えています。Digital Key 2 Touchでは、互換性のあるスマートフォンまたはスマートウォッチと車両間のNFC接続を活用することで、ユーザーのスマートデバイスで車両のロック/アンロック、エンジン始動が可能になります。車両オーナーは、友人や家族と共有するデジタルキーを最大3つまで追加作成でき、任意で失効させることができます。
主なポイント
Kona Electricのテストを行う中で、SBD AutomotiveのUX専門チームは、その幅広い「Delight(付加価値的な、プラスアルファの)機能」を高く評価しました。
その中でも際立っていたのが、2024年モデルのKona から導入された同社の車内決済システムHyundai Payで、中央のインフォテインメントスクリーンで充電や駐車料金の支払いができるため、ユーザーは車外に出る必要がありません。同じ画面上で、駐車場や充電プロバイダーを表示し、価格情報を比較することも可能です。ただし専門家チームは、Hyundai Payによる一般的なEVドライブの利便性の向上を評価する一方で、Plug&Chargeなどの技術採用の可能性を考慮すると、いまだ改善の余地があるとみています。
Hyundai Payは現在の実装では、ユーザーがインフォテインメント画面で充電(および駐車場)の支払いを開始する必要があります。しかし、Plug&Chargeと統合することでこのステップが自動化され、充電セッションの終了時に自動的に支払いが行われるようになります。SBDの専門チームは、こうした統合によってHyundai Payのユーザーエクスペリエンスがよりシームレスになるだけでなく、すでに提供している利便性がさらに向上すると考えています。
UX専門チームが注目したもう一つの機能は、Kona Electricのリモートパーキング機能で、量産車セグメントおよびプレミアムセグメントにおける他の車両とは一線を画しています。キーフォブの右上にあるボタンで操作するこの機能は、車内からも車外からも使用できます。UX専門チームは同機能をテストした結果、狭い駐車スペースでの操作に非常に便利で、リモート操作で駐車することで車両のドアを傷つけるリスクを軽減できると評価しました。また、子を持つ親にとってはこの機能により、車外から車を移動させ、子供を乗せるのに必要なスペースを確保して駐車させることが可能です。
UX専門チームは、Kona Electricが提供するさまざまな機能を評価する一方で、その多くの統合には課題があるとしています。特にナビゲーションでそれが顕著であり、目的地を検索する際、入力中に自動提案される結果には、ナビゲーションに関係のないシステムの他の部分からの提案も含まれていました。また、インフォテインメント画面で「OK」を選択したときに、ナビゲーションとは無関係の結果が表示されるなど、一貫性がみられませんでした。こうしたナビゲーションシステムのUXについて専門チームは、ユーザーにとって予期せぬもので混乱を招きかねない、としています。
こうした統合の問題は、車両の音声アシスタントのテストでも同様に顕著だった。ユーザーの音声コマンドをテキストで読み上げるにもかかわらず、専門家が提出したリクエストを正しく処理できなかったり、完全に誤解したりすることがよくあった。この問題に遭遇したとき、システムは3つの応答を繰り返したが、これは専門家が要求を満たすのに十分なサポートとは感じなかった。
分析
SBDのUX専門チームによるKona Electricの深掘り分析の結果、その様々な機能やテクノロジーのユーザーエクスペリエンスにおける強みと弱みが明らかになりました。インフォテインメントシステムのホームウィジェットの配置(ドライバーはこれをユーザープロファイルに保存可能)から、アンビエントライトシステムが提供するカラーオプションの範囲に至るまで、車両全体で提供されるカスタマイズ性のレベルは主要な強みとして評価されました。中でも最も際立っていたのは、センターコンソールとステアリングホイールの両方に装備された、完全にカスタマイズ可能な星のアイコンのボタンでした。
一方で、 Kona ElectricのADAS機能の実装は弱みであると評価されました。ステアリングホイールでは、一連のボタンでADASの機能を制御するようになっていますが、1つのボタンが同時にSmart Cruise ControlとHighway Driving Assistという2つの異なるADAS機能の制御を担っています。またUX専門チームは、これらのボタンに表示されているアイコンが、それぞれの機能を必ずしも明確に伝えていないとしています。こうしたことから、ユーザーが機能を理解し、学習し、制御することが容易でなくなる可能性があると、チームでは結論付けています。
次のステップ
全体として、新型Hyundai Kona Electricは、標準装備のコネクティビティおよび利便性の高い機能によって、テクノロジー主導のUXを提供しています。SBDのUX専門チームは、同EVのテストおよび分析を通じ、付加価値機能によって提供される有用性と利便性を高く評価し、一部はインフォテインメントのみならずEV所有体験において重要な役割を果たすものだとしています。しかしながら、これらの機能の統合は十分とは言えず、またさまざまな領域でそうした課題が散見されたことから、最終的にこれらの機能のUXは一貫性を欠き、ユーザーの混乱を招く、あるいは場合によって困難を感じさせかねないという評価となりました。
上述のとおり本記事では、Hyundai Kona Electricの全体的な長所や短所を紹介しましたが、これらはレポート「Hyundai Kona Electric - UXベンチマーク評価」本編でまとめる評価のごく一部にすぎません。150ページを超えるレポート本編では、ADAS 、インフォテインメント、ナビゲーション、音声認識など、いくつかの重要な領域にわたる同車両の機能ユーザーエクスペリエンスについて、さらに深い洞察を提供しています。本書では、これらの特徴や機能をSBDの評価手法に照らして採点するとともに、2023年HMI UXレポートシリーズで評価した車両や、2024年版HMI UXレポートでレビューした他の車両に照らし、新型Kona Electricをより広範にベンチマークしています。
SBDのUXベンチマーク評価レポートシリーズでは、最新の車載HMIソリューション、そのエンドユーザーへの影響、どの車両が最も優れたユーザーエクスペリエンスを提供しているのかについて、専門家チームが包括的な評価を実施しまとめています。
下記より、SBDのウィークリーニュースレターを無料購読いただくことで、本シリーズの新刊発行時にいち早く情報をお届けいたします。